とある双極性Ⅱ型の旅路

双極性Ⅱ型と共に働く日々

双極性Ⅱ型の私によるなんちゃって社会リズム療法のススメ

双極性障害と社会リズム療法

2010年頃に双極性障害Ⅱ型と診断されて、そこからいろいろな書籍を読みあさり、私が気になったのが、対人関係療法と社会リズム療法でした。
認知療法は私にはあまり合いませんでした)

対人関係に焦点を絞った対人関係療法の考え方は、私にはとても納得感があり、強い興味を持ちました。
ただ、当時は黎明期で書籍も少なく、治療を受けられる場所はほとんどありませんでした。

もう一つ、私が興味を持ったのが社会リズム療法でした。
こちらは、当時はある1冊の本で少し紹介されているだけで、他に書籍が見当たりませんでした。(今も状況はあまり変わりません)

理論自体が非常にシンプルで分かりやすいこと、私なりになんちゃって社会リズム療法を実践して、双極性障害の人に役に立つと感じたので、その経験をご紹介します。

社会リズム療法をざっくり説明

社会リズム療法は、素人がざっくり要約すると、生活リズムとコミュニケーションレベルを一定に保つことで、双極性の症状を安定させられる、というものです。

※「生活リズム」「コミュニケーションレベル」というのは、分かりやすい言葉を私が当てはめただけで、公式な用語ではありません。

私が読んだ中で、参考にしたのはこちらの2冊です。(関連書籍を網羅したわけではないので、他にもいい書籍はあると思います)

まず、社会リズム療法では、双極性の波(躁とうつの波)が大きくなる原因は、大きく二つある、と定義しています。

1つめは、いわゆる生活リズムが崩れること。
目を覚ます時間、食事の時間、布団に入る時間などの主要な生活イベントの時間が安定しないと、躁うつの波が大きくなったり、躁転やうつ転などの引き金になります。

これらの変化は、就職、転勤、転職、結婚、出産など、様々なライフイベントにより影響を受けます。双極性の人は生活の変化に弱い、ということになります。

2つめは、コミュニケーションレベル(人から与えられる刺激のレベル)が崩れること。

コミュニケーションレベルの算出には二つの要素があります。
1つは単純に人数。一人で部屋にいた、家の中で家族と話した、繁華街に行って人混みの中にいた、という順でレベルが高くなります。
もう1つは刺激の強さ。すれ違っただけ、挨拶をした、おしゃべりをした、議論をした、喧嘩をした…というように、言うなれば心を動かす(精神を消耗する)程度が上がれば、レベルが高くなります。
この2つを掛け合わせて、コミュニケーションレベルを判定します。

ポイントとしては、刺激の強さは、マイナス方向の刺激(悲しい、つらいなど)だけでなく、プラス方向の刺激(嬉しい、楽しいなど)も含みます。プラスマイナス関係なく、絶対値が重要、ということです。

普段から「今日のコミュニケーションレベルはどうだったかな?」「さっきの会話のコミュニケーションレベルはどうだったかな?」と考えるようになると、自分にとってのコミュニケーションレベルはなんとなく分かってくると思います。
今日は会議があったけどそんなに発言しなかったからコミュニケーションレベルが低かった、今日は家族の誕生日で夕食後にお祝いをしたからコミュニケーションレベルが高かった、というように。

コミュニケーションレベルについても、大きく上がったり下がったりすると、やはり躁うつの波が大きくなったり、躁転やうつ転などのきっかけになってしまいます。

社会リズム療法はふわふわしている

社会リズム療法自体はとっても単純。生活リズムとコミュニケーションレベルを一定に保つだけ。
でも実践しようとすると、毎日運動するのが難しいのと同じで、なかなかできることではありません。

そもそも、社会リズム療法は、どの位ならいつもと違っても大丈夫なのか、違ってしまったときはどう対処したらいいのか、一般書ではいまいち分かりません。

ということで、ここからは私なりに工夫して実践している、なんちゃって社会リズム療法です。あくまで、とある双極性Ⅱ型の人の活用例として参考にしていただければと思います。

記録をつけよう(短期間でも大丈夫)

社会リズム療法では、生活リズムとコミュニケーションレベルの記録表(SMR:ソーシャル・リズム・メトリック)を付け、自分のリズムが見えるようにします。

標準的なフォーマットはこんな感じ。使い方の説明はしません。なぜならここからの説明では使わないからです。

SMRフォーマット

私は最初はバーチカル式の手帳に手書きで、その後「リズムケア」というスマホアプリに移行し、10年弱続けていました。今は記録をつけていません。
しばらくつけると自分の癖や平均値が分かるので、それ以降は記録をつけないというのもアリだと思います。

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私の場合、入力項目の設定と実際の記録はこんな感じです。細かく読み込む必要は全くありません。雰囲気だけ掴んでください。

・就寝時間(布団に入った時刻、布団から出た時刻)
・睡眠時間(寝入った時刻、目が覚めた時刻)
・勤務時間(始業時刻、終業時刻)
・体調(5段階)
・気分(5段階)
・バランス(躁うつを3段階で)
・頓服を飲んだ数

※食事の時間も最初つけていましたが、私の場合はあまり影響がなさそうだったので、途中から外しました

※私は過食症(食べ吐き)歴が長かったので食べ吐きの回数も記録していました(私の場合は食べ吐きの回数=ストレス度です)

それと、これは記録魔である私の例なので、もっと雑でOKだと思います。まずは睡眠時間だけ、で十分です。自分が続けられそうな範囲でやりましょう。

また、自分でつけなくてもいいと思います。
最初は、家族や同居人などに、布団に入った時刻、朝起きてきた時刻、夕食を食べた時刻、見ていて調子よさそう悪そう、などを記録してもらうのがいいと思います。
(双極性の場合、調子や気分の上下は、周りの人の方が正しく把握できる場合も多いので)

では私の例です。(アプリ画面のスクショ)

私の入力項目と実際の入力例

3ヶ月グラフで見るとこんな感じ

記録表をつけたら「限界」が分かる

記録表をつけたら何が分かるか。自分の限界が分かってきた、と思っています。

例えば私の場合、布団に入るのが0時を過ぎると翌日の体調に影響します。入眠が2時を過ぎると翌日はまともに仕事ができません。
頓服を1日3錠以上飲み始めたらかなり気分が不安定になっています。その状態で、ハードな会議、出張、飲み会などの予定が入ると、調子を崩す可能性が高くなります。

もう一つ、私は調子を崩した日に何かきっかけがなかったか、後から思い出すようにしていました。
実は○○さんと会議があった日は眠れないとか、友人と会うとその日は元気だけど翌日以降に気分が不安定になる、というような気づきがありました。

(ただし、不安定な時に振り返りをすると、嫌なことを思い出して頭の中がそれでいっぱいになったりするので、そういうときは考えるのを止めていました。そういうときに自分を苦しめる記憶は、落ち込みの本当の原因ではない場合が多かったように思います)

もし「理由が分からないけど調子を崩すので困っている」「自分が何に弱いのかを知りたい」という場合は、社会リズム療法で何か分かるかもしれない、と思います。

「限界」への対応を決める

では、記録表をつけて自分の限界が分かったところで、それをどう活用するか。

理想は、限界に達しないように生活リズムとコミュニケーションレベルをコントロールして生きることですが、実際は難しいと思います。
子供が寝込んだら?繁忙期が来たら?友達の結婚式に呼ばれたら?断れない出張が決まったら?

でも、限界が分かっていたら、限界を踏み越えるか、手前で止まるかを自分で決められます。

例えば、飲み会の翌日に体調を崩すので、金曜日なら土曜日に寝込む覚悟で一次会だけ行くけれど、他の曜日の場合は用事があると言って断る。
友人と集まる予定があっても、気分が不安定な時は断って、LINEなど別の手段で連絡を取るようにする。
繁忙期でどうしても深夜残業をしないといけないときは、終業と同時に布団に入れるようにテレワークを死守する。

もちろん、実際は、そう上手くは対処できないですし、分かってはいても、無理をせざるを得ないことも多々あります。

それでも、「今、私は限界を超えている」と自覚できているだけでも、主治医や同僚や家族に相談しやすいですし、無自覚に更なる無理をしてしまうことを防ぎやすいのではないかなと思います。

自分の状態を「自覚」する

双極性は、躁とうつを行き来します。でも、自分では(特に躁では)自覚が難しい病気だと思っています。

その点、記録表をつけていると(自分のパターンが分かっていると)、「睡眠時間が短いのに変に元気だな?躁状態かな?友達と会う予定を減らした方がいいかも」というように、記録表から自分の状態を客観的に判断することができます。

個人的に、「自分の状態を自覚できるかどうか」というのは、双極性にとって意味が大きいと感じていて、その点でも記録をつけるのは自分の安心に繋がるんじゃないかと思っています。

まとめ

社会リズム療法は、お金を掛けることなく紙とペンだけで、あるいはスマホだけで手軽に始められ、短期間で効果(自覚)が得られるコスパのいい療法だと思っています。
周りの人に記録してもらえるなら、自分の負担もありません。

記録表をつけて、自分のパターンと限界を知ること。
自分の状態を自覚すること。
そして、双極性障害の症状との上手な付き合い方、上手な距離の取り方を知るために、社会リズム療法を試してみてもらえたらなぁと思います。

私にとって、倒れるまで頑張って倒れるのではなく、自分で限界を超えるかどうかを自覚した上で行動を決めるというのは、未来への不安を一つ、減らしてくれました。

もし、この記事を読んで社会リズム療法に興味を持ってもらえたら、関連書籍を読んでみてください。
この記事は、あくまで素人がまとめたもので、医療情報でもなんでもないので、参考程度にお考えください。

この記事が、少しでも誰かの役に立ったり、気持ちを楽にする助けになれば、とても嬉しいです。

 

 

 

閲覧注意:社会リズム療法における○○○

最後に、ちょっと脱線させてください。

恋人がいる人、恋人が欲しい人はここで読むのを止めた方がいいかもしれません。
まだ双極性を受け入れられていないという人も、読むのを止めておいた方がいいと思います。

 

 

 

大丈夫ですか?
いいですね?
では、続けていきます。

 

 

 

先に紹介した2冊も、他にもう1冊読んだ専門書籍もそうだったのですが、記録表の記載例の中に、「恋人とデート」という日があるんです。

デートの日はいつもと違う生活リズムになります。寝る時間も遅くなるし、恋人とのやりとりは刺激的でコミュニケーションレベルも跳ね上がります。
当然ながら、と言っていいのか、翌日は体調を崩すという例になっています。

え、双極性の人は翌日に体調を崩す覚悟でデートしないといけないの?
生活リズムはともかく、恋人とのデートでコミュニケーションレベルを上げずに過ごすなんて無理じゃない?

なんというか、地味に読者の気持ちを折ってくる記載例が出てくることへの違和感がずっと消えません。
正直で実用的な記載例ではあると思いますが、対処方法を書かずにそこだけ取り上げるのはどうなの、と未だに思います。

(この件に関して私の体験談はございませんので悪しからず)